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SASE(サシー)とは?ゼロトラストとの違いや情シスの運用負荷を削減するメリットをわかりやすく解説

作成者: 株式会社セシオス|May 29, 2026 8:54:18 AM

 

「Web会議が途切れる」「クラウドが遅い」といった従業員からのクレーム。増え続けるセキュリティ製品(VPN、プロキシ等)の管理と、それに伴う情報システム部門の運用負荷増大など、クラウド利用とリモートワークが当たり前になった現代、従来の「境界型防御モデル」では限界を迎えています。

 

こうした複雑化したITインフラの運用課題を根本的に解決する新たなアプローチとして注目されているのが「SASE(サシー:Secure Access Service Edge)」です。

本記事では、SASEの基本的な概念から、「ゼロトラスト」との違い、SASEを構成する5つの機能、そして情シス部門の運用負荷を劇的に下げる具体的なメリットまでを網羅的に解説します。この記事を読めば、自社のネットワーク課題を解決する道筋が見えてくるはずです。

 

近年、企業におけるリモートワークの常態化やクラウドサービスの利用拡大は、情報システム部門に新たな課題を突きつけています。従来の社内ネットワークと境界型防御モデルでは対応しきれない状況が生まれ、多くの企業でセキュリティとネットワーク運用の複雑化、効率低下が顕著になっています。この章では、SASEがなぜこれほどまでに注目されているのか、その背景にある具体的な課題を深掘りして解説します。

 

リモートワークが普及し、SaaSをはじめとするクラウドサービスが企業活動の中心となるにつれて、従来のVPN(Virtual Private Network)がボトルネックとなるケースが増加しています。多くの企業では、セキュリティを確保するために、従業員がどこからアクセスしても一度データセンター内のVPN機器を経由させてからインターネットやクラウドサービスに接続させる「ヘアピン通信」と呼ばれる方式を採用してきました。この方式は、データセンターという一箇所にトラフィックが集中するため、通信量の増大とともに遅延が発生しやすくなります。

 

実際に、「Web会議が頻繁に途切れる」「クラウドアプリケーションの動作が以前よりも遅い」といった問題は、多くの従業員から日常的に聞かれるようになりました。このような通信遅延は、業務効率を著しく低下させるだけでなく、従業員のストレスの原因にもなります。情報システム部門の担当者様は、これらのパフォーマンス問題の原因究明や、利用者からのクレーム対応に追われる日々を過ごしているのではないでしょうか。

 

従来のVPNは、社内ネットワークへのセキュアなアクセスを目的としたものであり、クラウド時代における多様なトラフィックを効率的かつ安全に処理するようには設計されていません。このギャップが、従業員の生産性低下という形で情報システム部門に重くのしかかっているのです。

 

SaaS(Software as a Service)やIaaS(Infrastructure as a Service)など、企業で利用するクラウドサービスの数が爆発的に増加しています。それぞれのクラウドサービスが持つ独自のセキュリティ設定や管理画面は、情報システム部門にとって大きな負担となっています。オンプレミスのシステムやデータセンターに加えて、複数のクラウドサービスごとに個別のセキュリティポリシーを設定し、維持管理する必要があるため、セキュリティガバナンスの統一が非常に困難になっています。

 

結果として、設定ミスやポリシーの抜け漏れが発生しやすくなり、これが新たなセキュリティリスクの温床となることがあります。例えば、あるクラウドサービスでは強固な認証が必須なのに、別のサービスでは比較的緩い設定になっていた、といった状況が起こり得ます。このようにセキュリティポリシーがバラバラであると、「誰が・どこで・何をしているのか」といったユーザーの活動状況を総合的に把握することが難しくなり、「可視性の低下」という深刻な問題を引き起こします。

 

可視性の低下は、インシデント発生時の原因究明を困難にするだけでなく、コンプライアンス対応や監査対応を極めて煩雑にします。本来ならば効率化のために導入したはずのクラウドサービスが、かえって情報システム部門の負担を増やし、セキュリティリスクを高めるというジレンマに陥っている企業は少なくありません。

 

巧妙化するサイバー攻撃や新たな脅威に対応するため、企業はこれまでファイアウォール、プロキシ、CASB(クラウドアクセスセキュリティブローカー)、IDS/IPS(不正侵入検知・防御システム)など、さまざまなセキュリティ製品(ポイントソリューション)を個別に導入してきました。しかし、これらの製品はそれぞれ異なるベンダーから提供され、管理画面も操作方法も多岐にわたります。その結果、情報システム部門の担当者は、多数の管理画面を行き来しながら、それぞれの製品の専門知識を習得・維持しなければならないという状況に直面しています。

 

このような状況は、運用業務の極端な複雑化を招きます。例えば、ある通信に問題が発生した場合、どのセキュリティ機器が原因なのかを切り分けるだけでも多大な時間と労力がかかります。また、個々の製品に対する深い知識が求められるため、特定の担当者に運用が集中し、「属人化」が進んでしまう傾向があります。これにより、その担当者の異動や退職が、事業継続そのものに関わる重大なリスクとなりかねません。

 

セキュリティ機器の増加は、導入コストや保守コストの増大も意味します。さらに、本来であれば戦略的なIT企画やDX推進といった付加価値の高い業務に時間を割きたい情報システム部門が、日々の煩雑な運用保守に追われ、そのジレンマを抱えているのが現状です。複雑化し属人化した運用は、情報システム部門のパフォーマンスを低下させ、企業のIT戦略推進を阻害する大きな要因となっています。

 

SASE(Secure Access Service Edge)とは、ネットワーク機能とセキュリティ機能をクラウド上で統合し、サービスとして提供する新しいフレームワーク、あるいは概念です。これは特定の製品を指すものではなく、多様な機能をクラウド基盤上で連携させることで、ユーザーがどこにいても安全かつ最適なアクセスを実現することを目的としています。

 

このSASEという概念は、2019年に米国の調査会社ガートナー社によって提唱されました。従来の境界型セキュリティモデルでは対応しきれなくなった、リモートワークの常態化やクラウドサービスの普及といった現代のIT環境の変化に対応するため、分散化したアクセスポイントからの一貫したセキュリティポリシー適用とネットワーク最適化の必要性から生まれました。

 

SASEの根底にあるのは、従来の「データセンター中心」のセキュリティ設計からの脱却です。これまでのアプローチでは、全ての通信を一度データセンターに集約し、そこでセキュリティ検査を行ってから目的のサービスへ接続する形が一般的でした。しかし、SASEでは「ユーザーやデバイス、アクセス先となるアプリケーションといった『ID』中心」の考え方にシフトします。

このID中心の考え方に基づき、SASEは「決して信頼せず、常に検証する(Never Trust, Always Verify)」というゼロトラストの原則をネットワーク全体に適用します。これにより、社内ネットワークに接続しているか、あるいは社外からアクセスしているかといった物理的な場所の区別なく、すべてのアクセスを信頼せずに厳格に検証し、最小権限の原則で安全を確保します。ネットワーク機能とセキュリティ機能がクラウド上のエッジで処理されるため、ユーザーはどこにいてもパフォーマンスを損なわずにセキュアな環境で業務に取り組めます。

 

SASEとゼロトラストは混同されがちですが、両者は異なる概念でありながら密接に連携しています。ゼロトラストとは、「決して信頼せず、常に検証せよ(Never Trust, Always Verify)」というセキュリティに関する基本的な”考え方”や”戦略”を指します。社内外問わず、すべてのユーザー、デバイス、アプリケーションのアクセスを信頼せず、常に検証・認証することでセキュリティを確保するというアプローチです。

 

一方、SASEは、このゼロトラスト戦略を実現するための具体的な”アーキテクチャ”や”フレームワーク”と位置付けられます。つまり、SASEはゼロトラストの思想を実装するための具体的な技術要素と構成をクラウド上で統合して提供するものです。例えるならば、ゼロトラストが家を安全にするための「設計思想」であるのに対し、SASEはその設計思想に基づいた「高機能なセキュリティシステムを搭載した家」そのものと言えます。両者は対立するものではなく、SASEはゼロトラストを実現するための強力な手段であり、互いに補完し合う関係にあります。

 

SASE(サシー)は、単一の製品ではなく、ネットワーク機能とセキュリティ機能をクラウド上で統合するためのフレームワークです。SASEは主に、以下の5つの機能要素によって構成されており、これらが連携することであたかも一つのソリューションであるかのように機能します。

 

SD-WAN (Software-Defined WAN):

ネットワークトラフィックを最適化し、安全かつ高速な通信経路を動的に選択するネットワーク機能。

 

SWG (Secure Web Gateway):

悪意のあるWebサイトへのアクセスブロックや、通信内容のフィルタリングを行うクラウド型のプロキシ。

 

CASB (Cloud Access Security Broker):

従業員のSaaS利用状況を可視化し、シャドーITの防止や情報漏洩を制御する機能。

 

ZTNA (Zero Trust Network Access):

従来のVPNに代わり、ユーザーやデバイスの検証状態に基づいて、特定のアプリケーションへのアクセスのみを許可する機能。

 

FWaaS (Firewall as a Service):

拠点に物理機器を置かず、クラウド上で高度なファイアウォール機能を提供する仕組み。

 

これらの機能が密接に連携することで、従来のネットワーク・セキュリティインフラが抱えていた多くの課題を解決し、情報システム部門の運用負荷を大幅に削減することに貢献します。

 

SASEの導入は、情報システム部門が直面する数多くの課題に対する強力な解決策となります。運用工数の大幅な削減やコストの最適化といった、経営層にも説明しやすい具体的なビジネス価値をもたらします。

 

SASEを導入する最大のメリットの一つは、企業全体のセキュリティレベルを統一し、大幅に強化できる点にあります。クラウド上で提供されるSASEは、場所やデバイスの種類に依存せず、すべてのユーザーと通信に対して一貫したセキュリティポリシーを適用できます。これにより、従来の境界型防御モデルでは困難だったリモートワーカーや海外拠点におけるセキュリティ統制が飛躍的に容易になります。

 

例えば、社員が自宅や出張先から企業のクラウドアプリケーションにアクセスする際も、社内ネットワークと同じ高度なセキュリティチェックがリアルタイムで行われます。これにより、不正アクセスやマルウェア感染のリスクを低減し、情報漏洩のリスクから企業を守ります。また、すべての通信ログやセキュリティイベントが一元的に可視化されるため、脅威の早期発見やインシデント発生時の迅速な対応が可能になり、コンプライアンス要件への対応や監査業務も効率的に進められるようになります。

 

情報システム部門の担当者様にとって、運用管理の一元化は特に大きなメリットとなるでしょう。SASEの導入により、これまで個別に管理していたファイアウォール、プロキシ、VPN、CASBといった複数のセキュリティ製品やネットワーク機器を、単一のクラウドベースの管理コンソールから一元的に管理できるようになります。

 

この一元管理により、ポリシー設定の変更、新しいユーザーの追加、セキュリティパッチの適用、障害発生時の原因切り分けといった日常的な運用業務にかかる工数が大幅に削減されます。複数のベンダーとの契約や、物理的な機器の保守・管理が不要になるため、総所有コスト(TCO)の削減にも直結します。運用負荷が軽減されることで、情報システム部門の皆様は、日々のトラブル対応に追われることなく、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進や新たなIT戦略の立案といった、より戦略的で付加価値の高い業務に時間を割けるようになります。

 

SASEは、従業員の皆様のユーザーエクスペリエンス(UX)と生産性を劇的に向上させる効果も持っています。従来のネットワーク環境では、リモートワーカーがクラウドサービスを利用する際に、一度データセンターを経由する「ヘアピン通信」が発生し、通信遅延の原因となっていました。しかし、SASEでは、最寄りのSASEプロバイダーのエッジ拠点から直接クラウドサービスに安全に接続する「ローカルブレイクアウト」が可能になります。

 

この仕組みにより、Web会議中の音声や映像の途切れ、クラウドアプリケーションの動作の遅さといったストレスが解消され、従業員はどこからでも快適かつ高速に業務に取り組めるようになります。セキュリティを担保しつつ、高いパフォーマンスで仕事ができる環境は、生産性向上だけでなく、従業員の満足度向上にも大きく貢献します。これにより、企業全体のビジネスアジリティ(俊敏性)が高まり、競争優位性の確立にも繋がっていくことでしょう。

 

SASEの導入は強力な手段ですが、その効果を最大限に引き出すためには計画的なアプローチが不可欠です。いきなり全社展開を目指すのではなく、段階的に導入を進めることでリスクを抑え、着実に成果を出すことができます。

 

最初のステップは、「現状の可視化と課題整理」です。現在のネットワーク構成、使用しているセキュリティ製品、クラウドサービスの利用状況、リモートワーク環境における通信フロー、そして従業員がどのような課題を感じているかを詳細に洗い出しましょう。これにより、SASE導入によって解決したい具体的な課題を明確にし、導入後の効果測定の基準を設定することができます。例えば、特定のクラウドサービスへのアクセス遅延や、セキュリティポリシーの適用漏れといった具体的な課題を特定することが重要です。

 

次のステップは、「スモールスタートでのPoC(概念実証)」です。全社的な導入の前に、一部の部門や特定の拠点、または少数のユーザーを対象にSASEソリューションを試験的に導入し、その効果と課題を検証します。この段階では、製品の適合性、パフォーマンス、運用性、そして既存システムとの連携などを確認し、想定通りの効果が得られるかを見極めることが目的です。PoCの結果を評価し、必要に応じてソリューションや導入計画を調整することで、本格導入時のリスクを大幅に低減できます。

 

最後のステップは、「段階的な適用範囲の拡大」です。PoCで得られた知見と成功体験を基に、SASEの適用範囲を徐々に広げていきます。例えば、まずは特定地域のリモートワーカーに適用し、次にクラウド利用が多い部門、そして全社へと拡大するといった形です。この段階的なアプローチにより、組織全体の変化を管理しやすくなり、問題が発生した場合でも迅速に対応することが可能です。

 

SASE導入における注意点としては、まず自社の要件に合致したベンダーやソリューションを選定することが挙げられます。SASEの概念は共通していますが、各ベンダーが提供する製品には機能や統合度合いに差があります。そのため、自社の現在の課題と将来のビジョンに最も適した選択をすることが重要です。また、シングルベンダーでSASEの主要機能を全て提供する「シングルベンダーSASE」と、複数の製品を組み合わせてSASEを実現するアプローチがありますが、運用のシンプルさやサポート体制を考慮し、どちらが自社にとって最適かを慎重に検討する必要があります。

 

SASEとSSEの違いは何ですか?

SASEと非常によく似た用語に「SSE(Security Service Edge)」があります。この2つは混同されがちですが、簡単に言うと、SSEはSASEの一部であり、SASEのセキュリティ機能に特化したソリューション群を指します。

具体的には、SSEはSWG、CASB、ZTNA、FWaaSといった主要なセキュリティサービスをクラウド上で提供します。一方、SASEはこれらのSSEの機能に加えて、SD-WANのようなネットワーク機能も統合し、より包括的なフレームワークとして提供されるのが特徴です。ガートナー社が2021年にSSEという用語を提唱したのは、ネットワーク機能との統合がまだ進んでいない企業でも、まずはセキュリティ機能のクラウド化から着手しやすいよう、焦点を絞った概念として位置づけた背景があります。

既存のVPNは不要になりますか?

結論から申し上げると、SASEの主要機能の一つであるZTNA(ゼロトラストネットワークアクセス)が従来のVPNの役割を代替・後継するため、将来的には多くのケースでVPNが不要になる可能性が高いです。ZTNAは、従業員がデータセンターを経由せず直接必要なアプリケーションに安全にアクセスできるよう制御します。

しかし、既存のレガシーシステムとの連携などにより、SASE環境への移行が完了するまでVPNが一時的に併用されることも十分に考えられます。SASE導入後もすぐにVPNが完全に不要になるわけではなく、戦略的な移行計画に基づいて徐々に役割を終えていくことになるでしょう。

 

本記事では、クラウドシフトやリモートワークの常態化によって複雑化したネットワークとセキュリティの課題に対し、SASEがどのように強力な解決策となり得るかを解説してきました。

 

SASEの導入は、単にセキュリティを強化するだけでなく、運用の一元化による工数とコストの削減をもたらし、これまで点在していた複数のセキュリティ製品やネットワークインフラの管理から情シス担当者を解放します。この解放された時間を、DX推進や新たなビジネス価値創造といった、より戦略的で付加価値の高い業務へと振り向けることが可能になります。

 

SASEは、まさに現代のビジネス環境において、情報システム部門が直面する課題を克服し、企業成長を加速させるための羅針盤となるでしょう。この新たなアーキテクチャの導入を通じて、情報システム部門が攻めのITへと転換するきっかけとなることを願っています。